第七話「予言と牙と抗いと」



そして今日もまた、俺はあの夢を見る。




だが、今日は様子が違っていた。





いや、確かに少女はまた少し離れたところでいつものように泣いているのだが―――今日はいつまで待ってもあの少年が現れることは なかった。



「・・・・っ・・・っ・・・」


どうしたのだ、なにかあったのか。
喉を震わすも、声にならない。


すると必至に声を出そうとする俺をあざ笑うかのような二つの笑い声が周囲に大げさに響いた。
高い女の笑い声と、低い男の笑い声。

壁はないのにまるであるかのように二つだったものが四つ、八つ、十六と幾重にも増えて重なっては鼓膜を劈く。



あまりの騒々しさに耳を塞ごうと腕を咄嗟に動かそうとするが、俺は何故か腰に挿してある刀に手をかけていた。


すらり、と小気味いい鋭利な音を響かせて、何かに操られるかのようにして腕はそのまま前をむく。


見れば金の二太刀はぬらぬらと妖しい黒光を纏い、それが伸びて俺の腕や足に絡み付いているではないか。


同時に刀を向けたまま、ず、ず、と、先ほど何度も動かそうとしても動かなかった足が何かに引き寄せられるようにして移動する。


まさか、この太刀が引きずっているのか?


・・・ありえない。何おかしなことを考えているんだ。
・・・なのに、身体の自由は一向に赦されない。


そのまま引きずられるまま、しかししっかりと腕は固定されながら前へ前へ、と進んでゆく。





「・・・っ!」





―――待て。


確かこの刃の先にいるものは―――。






「・・・ごめん、なさ・・・っ、ごめんなさい・・・っ龍神さまのこえ、聞けるように・・がんばる・・・から・・・っ」









止めろ。








「殺せ、葛城忍人。それこそがお前の望む国を手に入れるための大義ぞ―――・・・」






止めてくれ――――――。







腕に柔らかくも堅い何かを貫く慣れきった感触と勢い良く飛び散る「あか」を目に留めた瞬間、意識はまた現実に吹き飛ばされた。






今までの夢とは比べ物にならないくらいの絶望感を抱いたまま。







散る紅。溺れる。窒息する。
今度は淡い色のではない、赤く鮮やかな、『桜吹雪』に―――――。











<「再臨詔」第7話「予言と牙と抗いと」>

あの後、はそのまま探検を続けていた。そして楼台という場所に出るとそこには、根城に船長として意気揚々として帰ってきたサザキ たちがいた。
どうしてここに、とちょっとした騒ぎになったところで風早と那岐が駆けつけて―――サザキが言うには元々海賊であった自分達は ようやく船を手に入れた、その船長たるものはここを根城にしていた頭である自分以外いないだろう、ということだった。船、とは勿論 この天鳥船のことだ。たちや沢山の兵が乗っているこの舵のあるかないかもわからない船での船長の意義など最早関係あるのかなどと 議論するが、結局は彼がこの船をまとめ、仕切ることに落ちついた―――瞬間、まるで本当にこの船が意思を持った「鳥」のように、 「サザキ船長」の意思など無視して急降下した。させまいと彼らは舵をとるが、やはり自由奔放な鳥には勝てなく無理なものは無理な ようで。
ひとまず船長の存在価値はあるのかどうかということはおいておいて、一向はここがどこか確かめるために船を下りて探索してみることにした。



重厚な扉をほんの少しあけただけでそこから濃度の高い霧がまるで生き物のように入ってくる。外に足を踏み入れてみればすぐそこに いるはずの風早の姿すらもぼんやりとしか見えなくなって不安を覚えてしまうくらいの状況だ。水の粒子は肌や衣服にぴたりとくっつき、 じめじめとした不快を皆にもたらす。
しかし、この霧は少々厄介だ。これほど見晴らしが悪いということは敵の急襲に遭った時に応戦するのが難しい。武器を振るうにも相手 の姿が見えないし、この異常気象ともいえる状況下で暮らしている敵にとってみれば霧に慣れていないこちらなど容易に倒すことができる だろう。それに、万が一応戦できたとしても味方同士の武器で相打ちになるなんてことも考えられる。
そこで、先ほど力を貸してくれた朱雀の力でなんとかならないのかとの提案があがるが、那岐によるとどうも神はそこまで万能ではない らしい。なんとも都合のいい存在だと皮肉ってサザキは唾を吐くが、仕方の無いことなのだろう。それこそ、四神が守護する神――― 龍神でもなければ。



聞きなれない言葉に目を丸くする。龍神とは今まで何回か耳にしたことはあったけれど、具体的にどのようなものかは知らない。
―――龍神とは、この中つ国を護る神のことで、忌まわしき大蛇に生贄に捧げられそうになった女の一人が立ち向かい、少女の祈りに 応えた龍神の加護を受けることによりその大蛇を倒すことが出来、平安の都、中つ国ができたのだという。だから、中つ国の王は今でも 願えば龍神の加護をえることができる、龍神の寵を受けた眷属であると。


中つ国の王たるもの、といえば一ノ姫亡き後であれば、であるに違いない。だが、はいまいちぴんとこなかった。
確かに今まで自分は「龍神の神子」や「龍に選ばれし神子」などと呼ばれることもしばしばあったが、龍の声など一向に聞こえること など無いし、考えてみれば聞こえることはおろか、どうやって呼ぶか、聞くことが出来るかも全く知らないのだ。それなのに加護を受け られるはずも無い。



―――しかし・・・よく、思い出してみれば・・・。
どんなに努力しようが龍の声が聞こえず、小さい頃に母親に見捨てられたこともあった・・・ような気もする。



ちくりと痛む胸が、それまで快濶に喋っていたを自然と黙らせた。
そんな様子を目に留めたのか、那岐はもう呼べない神の話をしたところで仕方がないだろう、と言って去ってしまった。彼がこの事実を 知っているかどうかは分からないが、にはこれも那岐なりの優しさだろうと何故か信じることが出来た。きっと、那岐がくれたナギの葉のお守りがそう告げているに 違いないから―――。
霧の中を一人でずんずんと進んでいってしまう彼の後を急いで追いかけるようにして、ようやくこの霧と不時着した場所の正体を確かめる ことにする。




***




霧の中とはいえ、姿が見えなくなることはあっても、その者の存在自体が無くなることなどおかしなことだ。
しかし、その「おかしなこと」が今、実際に起きていた―――。




この、全身に執拗に纏わり付く重い濃霧のなか、今まで一緒に話し、歩いていた仲間が、ひとり、またひとりとどんどん消えていって しまったのだ―――。
もしかしたら近くにいるだけなのかもしれないと思って、あわてて周囲を探すが一向に見当たらない。万が一はぐれたとしても さっきまで話していたのだからその声の響く大きさといい、確かにまだ近くにいるはずなのに。
増してゆく白さと消えてゆく仲間の存在に急激に比例するようにして、の心の暗雲はどんどんと広がっていった。


ついに最後までそばにいた風早も、目の前で霧に攫われてしまって―――鬱蒼とした雑木林にひとりぼっちになってしまった。
だが、ここで挫けないのが彼女の強さだ。悲観するより早く、まだ近くにいるかもしれないと、大声を上げて仲間の名前を呼びながら 両手で草をかき分ける。大きな声を上げればまた王としての自覚がないと忍人にでも怒られそうだったが、今はそんなことは気にして いられなかった。

するとふと、かき分けた雑草の根から光のようなものが一気にあふれ出す。一体なんだと思って目を腕で覆ったときはもう遅かった。
巻き上げた光の洪水に飲みこれるようにして、の意識は飛んだ。













・・・気が付けば、暗闇の世界。耳にはひゅう、という風がかすめる音が響いていた。その音に暫く耳を済ませていると五感が段々と覚醒 してきて、自分は今何か堅い地面の上に覆いかぶさるようにして倒れていることに気が付く。目の前が真っ暗なのはおそらく、目を閉じて いるからだろう。
やや覚醒の間があって、先ほどまでの状況を思い出して、ぱっと目を開ける。そして周囲を見渡せば、ここが先ほどまでいた場所ではない ことだということがわかった。そう、あの気にいらない濃霧がすっかりと消えていたのだ。
代わりに、うってかわって乾燥したからからな風が吹き荒び、金色の髪を悪戯に弄んで―――立ち上がったその場所は足を少しでも 動かせばすぐに赤い土埃が舞いあがるほどに干上がって、ところどころに大きなひびが入っていた。まるでこの土地全体が永年の 旱魃(かんばつ)にでも遭ったのかのように干からび、一応草は生えているが、全て枯れ果ててしまっている。

まさか、先ほどのあの光で・・・自分は死して地獄にでも招かれてしまったのだろうか。いや、それとも皆もあの光に飲まれて消えたの だとしたら、この場所に一緒に飛ばされたのかもしれない。あれから時間は幾程経ったのかはわからないが少なくとも今はあの霧の中より 見晴らしが良いし、仲間を見つけることが出来るかもしれない。逸る気持ちを抑えては周囲を見回ってみることにした。
すると、彼女の思ったとおり人影がぼんやりと見えた。しめた、と思って足早に駆け寄るが、そこにいたのは仲間ではなく、やせ細った 老人がひとり、ぽつねんと佇んでいて。


「あの・・・こんにちは、おじいさん」


何かここの情報が得られないかと思って話しかけてみるが、彼の瞳は荒野のずっと、遙か遠くをずっと見つめていて、話しかけにくい。
悪い予感は的中。聞こえていないのか、無視しているのか、無反応なままだ。しかし、まだここで諦めるでもない。何せ、仲間とまた合流する手立てはこの老人だけなのだから。


「すみませんが、ここ、どこなのか教えていただけませんか」


出来るだけ声音を優しくして、表情を伺うようにして話しかけてみる。
すると、いままで凍ったようにただ前だけを見ていた老人の瞳がぐるりとまわって、の蒼穹を射抜くように見つめた。


「ここは、何も無い国じゃ」

「何もない・・・国・・・」

「すべて静寂に飲み込まれていく。今ある物たちもやがて消えて行くものばかり。全ては無に還るのみ・・・」


その瞳の色は何処までも暗澹に濁り、見つめられていても眼球のずっと奥を見ているように思われる。ようやく口にされた言葉は絶望 の色を含むかのように平たんな抑揚で。


「いったい、何があったんですか?この草原もずっとむこうまで枯れてしまってる。何かとても恐ろしいことが起きたみたいに・・・」

「聞いたところで何も変わらぬよ。この地には恐ろしいことなどなにも起きてはいない。すべてに滅びが訪れるは誰にも変えられぬ定め・・・。とこしえを約束された地でも定めには抗えぬもの」

「どんなに栄えたものもいずれは滅びる・・・中つ国のように」


雄弁と、しかしなにかに絶望し全てを諦めきった老人の言葉にぼんやりと応える。この様子からいってこの老人が言っていることには 嘘や出鱈目は無いようで、思わず雰囲気に飲まれてしまう。


「神の定めに抗えるのは『黒き手の王』のみ―――」

「・・・?」

「それすらも・・・・・・すでにさだめられている・・・・・・」


途端、びゅう、と強い風が吹いてきて、老人の周囲に黒い闇がもやもやと渦巻きだした。


「おじいさん!? 大丈夫ですか?」


身体からは闇に呼応するようにして鈍い光がまるで湯気のようににじみ出てきている。それでもなお口は語ることを止めない。どこか 遠い天を仰ぎながら、ぼやきのように虚ろな声で。


「ただ・・・・・・黒き手の王が・・・・・・滅亡も永続も・・・。混沌の輪から拾い上げる・・・・・・」

「え・・・?」

慌てて様子のおかしくなった老人に駆け寄ろうとするが、黒い光が増すにつれて脳に響きだしたキィン、という高い音がそれに歯止めを かけてしまう。その音を基にして様々な音がそこに乗りかかってきて、の筋肉の収縮を止める。

「う・・・っあ・・・」

「止められぬことだ・・・白き龍の傀儡よ・・・・・・」

「・・・・・・おじいさん・・・・・・?」

「・・・・・・汝には・・・・・・救うことはできぬ・・・」


耳の痛みを堪えるのをまるであざ笑うかのようにして余裕の表情で見下す老人の姿が、ついに黒の光に飲まれて―――再び光から出て きた老人の姿は変わっていた。先ほどまでぼろぼろにへたれた麻布を纏っていて、細い骨に薄い皮膚だけをかろうじて纏っていた かのような風貌ではなく、まるで別人かのように豪華絢爛な衣に身を包み、がっちりとしていて重たそうな甲冑を身に纏い、顔はしっかり とした肉付きで体格も歴戦の武人であるかのように良い。髪は真っ白で、ずっしりとした貫禄があった。


「! ・・・その姿は・・・!?」

「汝にも・・・救うことなどできはせぬ・・・」


全体を確認した後で再び服に目をやると、その装飾品や刺繍の仕方は中つ国のものではないものだと分かる。ということは、彼は―――。


「あの服は常世のものだ。それじゃあ、ここはもしかして・・・」


霧に紛れて大変なところに紛れ込んでしまったものだ。
最悪の場所。最悪な人物。今日という日ほどは自分の運の無さをうらむことは無かった。
だが、不思議と逃げる気にはならなかった。勿論、相手は敵なのだから今すぐに逃げなければならないということは痛いくらいに 分かっていたけれども、違うのだ。何か―――きっと何かを、この人は伝えようとしている、と、また「あの」確信があったのだ。


「救えないって、どういうことですか。私にはそうは思えない。あなただって本当は―――」

「いかに言の葉を重ねようとこの地ではすべてが虚しく無に帰するが定め。汝がいかに言霊を共鳴させようと、何も変わりはせぬ」


不意に、男が太い腕をに向け、なにかを念じる。
すると、手のひらから禍々しい黒と赤の気のようなものが伸びてきて、防御虚しくの四肢や喉にからみついてきた。
そこから一気に体力が奪われて、先ほどから広がっていた心の孤闇がどす黒さを増していった。


「く・・・・・・っ」

「消え行く世界に殉じよ」


じりじりと、心臓が闇に締め付けられてゆく感覚に見舞われて―――同時にまるで待っていたかといわんばかりに闇が増すにつれて 脳にひびく高音は増してゆく。身体を内部から感染してゆく陰の気と幾人もの罵声や嘆きの騒音に脳がまるで割れてしまうようだ。


『い、・・・や、だ・・・っ』


いったいこの世界に心などというものが具現化するのかは分からないが、あと少しで自分の心が全て闇に侵されてしまうだろうと予感 した瞬間、寒気と共にある意識がに流れ込んできた。
まさか、と思って目の前に仁王立ちしている男を見上げると、次々と口から言葉が流れ出してくる―――。


「あなたは・・・常世の国の王、皇(ラージャ)・・・」

「・・・?」

脳に響いていた声の川が、荒ぶる奔流から段々と落ち着きを取り戻してくる。
今までぐちゃぐちゃに混ざっていた言葉の数々が洗い出され、罵声や叫び声が消えて、必要な言葉だけが流れて。


「既定伝承は、変えられる。あなたの心は、変えられないと思っていることに縛られているのよ」

「・・・愚かな空言を」

「いいえ、違うわ。誇り高き獅子王スーリヤ、あなたならわかるはず。いえ、覚えているはず」


気が付けば闇に覆い尽くされそうになっていた心はその本来の輝きを取り戻していた。何故ここまで言葉が浮かび、口に出来るか わからないが、今全身全霊をかけて彼にこのことを伝えなければならないことだけは分かったのだ。


「あなたがしたいこと。この世界――豊葦原を、恵み豊かな世界にすることを」

「・・・!」



あなたの心はどこにあるの?

あなたの心は一体、どんなに冷たい牢獄の中に捕らわれてしまっているの?


は静かに瞳を閉じて皇に触れる。すると、いつの間にか纏っていた黒い光を押し返すようにして広がっていた眩しい白光が、今度は 皇ごと包み込む。
そして、瞳の奥には、底なしの闇に絶望するかのようにまっすぐに立ち尽くす彼の姿が浮かび上がっていて―――。


「皇、一緒に変えましょう。この悲しみの輪廻を―――」

「黒き手の王―――」


目一杯差し出した手に、心の中の皇は目を細め―――・・・



微笑った気が、した。




















・・・しばらくして、周囲に広がっていた光がゆっくりと落ち着きを取り戻してゆき、は目の前を見据えた。


「・・・白き龍の神子、永劫喪失の悲しみを繰り返す哀れな娘よ。汝は幾度死に果てても、その望みを捨てない」


ふと上から声が落ちてきて、は彼のほうに向き直った。だが、今度は彼の瞳に先ほどのように命の危険を感じることは無かった。
ゆっくりと、安心して彼を見つめる。


「我が心は今、ほんの少しの間―――あの神から逃れることが出来ている。この一時が過ぎてしまえば、また再び汝を害することになろう」



だから―――と、彼は性急に続けた。








「今、伝えよう。・・・汝が護ろうと、本当に得たいものを得るには―――どうしたら良いのか、を」









那岐の言葉が反芻する。






が守りたいもの、守ればいいんじゃないの?」






―――私の守りたいもの。―――私が、したいこと。

あの時感じた胸のつっかかりがまだ取れないうちに、まだ自分でもそれがハッキリとしていないのに、彼はそれを得る方法を教えてくれる という。まさか、自分の守りたいものが、彼にはわかっているのかもしれない。


「あの、私のしたいことって・・・!」


自分の本当にしたいことをあかの他人に訊くなど全くおかしなことなのかもしれない。だが、今のはそんな簡単な矛盾にも頭がまわら ないくらいに胸が騒いでいた。
だが、の必死な形相に一瞬目をしかめたかと思いきや、皇はその件には一切触れないで。


「鍵なる記憶はまだ澱む水底に眠っている。それを引き上げた時――汝は大きな選択を迫られるだろう」

「・・・・・・っ」

「選ぶべき、救われるべき道は一つ。―――その時目前の者を刃の贄とせよ。さすれば、白き国は永久に神の恵を受けられるだろう」

「あ、あの・・・っ!」


皇の姿が、いつのまにか流れ込んできたあの霧に掻き消されてゆく。
待って、まだ大切なことをきいていないのに―――。


「弱きに頼る禍津星に縛られざるを得ぬ運命の神子。汝が本当に大切な者を護るには、ただ一つ。その方法以外に路はない―――」

「待って・・・!!」


霧に急いで手を伸ばすも虚しく、彼女の手は空を切った。
そして、もう二度と彼の声が聞こえることは無かった。


まだ、大切な記憶は眠っている。
そしてそれを思い出した時に、大切な選択を迫られて・・・・・・その時に、目の前の人を・・・。
そうすれば・・・この世界は永遠に幸せになる――――――・・・?


光に包まれたときとは違い、ひどくゆっくりと落ちてゆく意識の中―――ただただ、皇の言葉が、の頭の中に何度も何度も反芻していた。





















・・・一体、皆はどうなったのだろう。
一番気にかかるのはあの頼りない姫だが、風早たちが付いていたからひとまずは安心だろう。

・・・しかし、幾度幾度歩けど先が見えない。


「・・・・・・ここは、無限地獄か」


自分以外誰一人として存在しないこの無限に先が見えない寂しい石回廊で、忍人は虚しくそうひとりごちた。無論その言葉に答えるもの などおらず、ただただ自分の歩く靴の音とため息がこだまする。
あの霧に攫われてからというものの、この無限に続く一本の道をひたすら歩き続けてきたが、一向に何の手がかりも無い。あの瞬間に 敵によってこの回廊に放り込まれたのかと考えたりもしたが、神子のように利用価値がある人物であるならまだしも、そんな価値のない ただの将である自分だったら捕まえた時点でさっさと殺せばいいはずだ。


「ただ、歩き続けるというのも・・・・・・疲れるな」


今朝はなんとも胸くそ悪い夢を見たし、そのせいでろくに朝餉も口に出来なかった。普段ならあと数刻は歩けるはずなのに、この代わり 映えしない同じ景色もあいまって今日はもう足が棒になるくらいにまで疲れていた。


「はやく・・・この場所から出なければ」

「それが、あなたの望みですか」

「っ!?」


先ほどからいくら独り言を言っても返答のなかった言葉が急に返されて、忍人は思わず固まった。そして、一瞬遅れて腰に挿してある 二つの刀を抜き、声のした方向―――背後を勢い良く薙いだ。
その反応はただ闇雲に振るったものではない―――忍人は、その声を聞いたことがあったからだ。


「まるで威嚇する狼のようですね。ですが・・・その刃で私を裂くことは出来ませぬ。今の私は、ただの影にしか過ぎませぬゆえ」

「貴様・・・・・・」

「お久しぶりです。・・・葛城将軍」





憎しみをひねり潰すようにして「エイカ」という名を苦々しく口にして身体を反転させ、その場を飛びのき退く。
全身を棺という黒装束でかためた男は、その忍人の様子をふと笑ったような気がした。






再び対峙した、裏切り者とその元上官―――。






なんとも数奇な時間はだけではなく、忍人にも迫っていたのだった。




















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今回長いです。
いや、本当は忍人VSエイカ(?)もこの7話に入れたかったのですが・・・予想外に出だしが長引いてしまったのです・・・><
もう皆さんプレイされてると思いますし、状況説明いらないっかな〜なんてことも思いますが、そこは伏線としてのこしておかないと いけなかったりするところなんで・・・削るわけにもいかない。文も単調になってしまいますし、どうにかしたいんですがね。

ちょっとずつオリジナル要素入ってきました!
そしてに心動かされる乙女な皇www年の差41歳!
いえでも、卓越した人の知識を得る場面がほしかったんです。年配の方の言葉はなによりも参考になります。はい。
それに、皇ルートやってみた時に「皇かっこWii!」って思ってしまったんで(笑)贔屓っちゃあ、贔屓ですね。彼は男らしいです。


そして那岐りんの葉っぱはこの後一体何の効果を発揮してくれるんでしょうか!(笑)


馬鹿なこといいましたが次回は忍人のシリアスなお話です。なかなか彼の心情面が書ける場面がないので、ちょっと楽しみにしてたり。

ではでは!







20:04 2008/09/28