第十五話「櫻花よ眠れ、星よ咲け」




夜の海というものはどことなく深淵で、怖さすら感じてしまう。
一応月の光を反射してるとはいえ、その波音は何か巨大なものを感じさせ、闇色はどこか遠い国に人間をさらっていってしまうような気すらした。


「・・・・・・まったく・・・こんな夜更けに一体何をしているんだ」


海辺を見下ろす小高い丘の上で、男はと―――自分の部下である足往の姿を観察をしていた。それというのも、天鳥船の夜の 警護をしていたら誰かが慌ただしく出てゆく音が聞こえて。こんな夜更けに一体誰が、一体なんの為に出かける?
・・・もしかしたら、天鳥船に乗り込んでいた常世の諜報員が自国に報告に行くのかもしれない―――・・・そう思って、ばれないように息を潜めこっそりと後をついてきたのだった。
しかし、距離を詰めるごとに露になる姿は彼の目を疑わせることになった。


「二ノ姫・・・足往がついているとはいえ、なんて無防備な・・・」


情けなさと怒りも相俟って思わず歩を海岸へと進めようとするが、



『二度と、俺の目の前に現れるな!』



逸る気持ちを抑えることを余儀なくされ、唇を硬く噛んで踏みとどまる。そうこうしているうちに悪い予感は見事的中し―――海の水気が産み出した荒魂が、二人を襲うために首を擡げ始めた。
足往は少年とはいえ立派な軍の兵だ。そう簡単にやられてしまうことはないとは思うが、水気の荒魂とは相克にある。それに加えて最近いつも呆けてどこか遠いところに意識が行ってしまっている二ノ姫。間違いなく、戦いが長引けば長引く程危険になろう。
ぐしゃと踏み潰された雑草の音が、波音に掻き消された。


「・・・、っ仕方ない」


自らの言った言葉に反することは避けたいが、そんな自尊心は今は不要だ。中つ国が段々とかつての勢力を取り戻しつつある今、その希望の要である二ノ姫を失うわけないはいかない。
応戦する二人をそのまま目に留めながら、足を崖の斜面へと一気に運ぼうとする。が――――――。



フォン・・・フォ・・・ン・・・



「っ!」



手が、今にでも足を踏み出そうとしている状況で剣の柄にかかる。迷うことなく、しっかりと握り締めて―――視線はまっすぐ、ただ彼女を見つめていた。そして同時に湧き上がる『あの』感情。


違うっ! 俺は彼女を――――――。


足をなんとか元の位置に戻して次に柄から手をもぎ取ろうとするが、なかなかそれが出来ない。目の前でこの国の希望が危機に陥っているというのに一体自分は何をしているというのだ―――。


しかしやはり柄に込められる圧力は静まることを知らない。この胸の中に這い上がってくるどす黒い感情もなにもかも、この刀を抜こうと促してくるのだ。



「――――――くっ・・・!」



<「再臨詔」第十五話「櫻花よ眠れ、星よ咲け」>



汗を拭うの耳に、なにやら誰か人がかけていくような音が入った。


「どうしたんだ、姫さま?」

「あっ、ううん。なんか人の走る音が聞こえて・・・」

「でももう荒魂は倒したぞ? 気のせいなんじゃないか?」


そうだといいけれど・・・そう呟くの目には、先ほどかけていった影が映る。暗くてよくは分からなかったが、あの二挿しの剣を持った人物は、間違いなく・・・。

『なんで? 足往が心配だったから? それとも私がもたもた戦ってたから?』

そう問いかけてみるもきちんとした返答も、その予想の確信もない。あれが風早や那岐だったら間違いなく後者だとは思うけれど、あの人の気持ちは分からない。ひとつだけ分かることといえば、また失望させてしまったということだけ・・・はふふ、と諦めの微笑を口元に浮かべる。
そういえば、あの人の気持ちを良く考えたことは無かったかもしれない。いや、確かに考えてはいたが、それは知っている事実からただ自分が推測しただけにすぎない。それで本当に人を理解した、気持ちを考えた、などと言えるのだろうか。


「よーし、姫さまのお陰で珊瑚も無事手に入ったことだし、これで明日皆で大変な思いして捜さなくても出雲の祭りが開けるな! きっと忍人さまも喜んでくれる」

「あの・・・足往」

「なんだ?」

「足往は・・・その・・。 なんで、おし・・・人さんをそんなに尊敬するの? いつも厳しいことばかり言われているのに」

「なんで・・・って、そりゃもちろん、カッコいいからさ!」


カッコいい?と問えば、足往は帰路に着くまで目を輝かせながら彼について語ってくれた。

あの橿原宮陥落の五年前―――当時幼いながらにして足往も下級軍に加わっており、怪我や疲労に動けなくなっていた。大将からの伝達も途絶えたとなにやら大人達が言っていたから、きっと自分達は見捨てられたのだろう。そして捨て駒として置き去りにして、将軍は逃走した。
信じられなかった。あれほど仲間を、命を賭して国を守ると言っておきながら結局保身に走って逃走するなどと・・・まさに絶望そのものだった。
このまま自分は敗走するうちに体力も底をつき、常世の刃に身を貫かれて死ぬのか・・・そう愕然とした時、散り散りになった自軍に刃で何か大きなものを切裂く音が聞こえた。
ついに追いつかれた―――最早同じようにして逃げ惑う仲間にすら置いていかれた身・・・このまま絶望しながら死んでいくのか。
そう、覚悟した時―――鉛のように重くてどうしようもなかった身体が、ふと軽くなったのだ。
驚いて確認すると、そこには当時自軍の副将であったあの葛城の族の男が自分の身を支えてくれていたのだった。
多くの将が命惜しさに逃げ出してゆくなか彼だけが逃げ出さずに踏みとどまり、満身創痍になりながらも逃げ延びたのだ、と。


「まー確かに、いつもは怖い顔しているけど・・・おいら、すっごくカッコいい人だと思うんだ! だから、おいらも絶対、忍人さまみたいな立派な軍人になってみせる。 姫さま、頑張るから見ててくれよ」

「ふふ、それは頼もしいことだわ」

「へへっ。 ・・・っと、もう着いたか」

「天鳥船―――・・・」


またひとつ、自分の知らない彼の姿を知った。そして、単なる事実からではなく、足往というひとつの観点から見た彼の姿も、また。
はきゅ、と唇を結んで、強張った笑い顔を無理に作る。騙すことは良心に響くけれど、それに足往も安心したようで自室へと帰っていったからひとまず置いておく。








「・・・・・・・・・・・・・・・」





ぼす、と布団に身を投げて、は手を額に当てて大きなため息をついた。



『だから、おいらも絶対、忍人さまみたいな立派な軍人になってみせる。 姫さま、頑張るから見ててくれよ』



「・・・・・・・・・・・・・・・」


その気持ち自体は凄く、嬉しい。
嬉しい筈なのに・・・そう思う一方で心は自責の悲鳴を上げている。



『そんなの・・・やってみないと、わからないわ!』



やってみても、結局駄目だった。折角心の天秤が見えて、あと一歩で救い出せると思ったのに一瞬生じた戸惑いによって無残にも命を散らせてしまったのだ。生半可な力があるために悪戯に他人の心を覗いて、結局はその尊い命の輝きを消すしか出来ない。
戸惑いは何故起こるのか―――そんなこと、考えなくてもわかっている。






「私は・・・命を守ることを『躊躇った』んだ――――――・・・」





瞼の裏には憎しみに歪んだ女の顔。耳には激昂に沸騰した女の声。


命は、重い。とてつもなく、重い。
その当たり前のような事実に気付いた途端、その怖さを知った。つまり、理解は恐怖を生む事と等価だということをどうしようもなく知ったのだ。でも、知らなくて良かったのかと自問してみても、今の自分ではその答えは出そうにも無い。
これでは先ほど足往が言っていた将と変わらないではないか。



「・・・こんなことで・・・」





『こんな気持ちで、私は一体何を守れるというの――――――?』




まだ若い少年兵や足往の爛々とした笑顔が暗闇に浮かんで、の視界はぼやける。目頭がじんわりと熱くなり、涙が溢れそうになったから、そっと瞼を閉じて。しかし誰にも悟られぬよう―――声だけは押し殺してただひとしきり泣いた。




「・・・・・・・・・っ」




嗚咽を押し殺す短い音に顔を歪ませながら、の部屋の外で息を殺していた男はいたたまれなく、その場を後にした。






***



小高い草原の丘で、一段低くなっている場所を座って見下ろす。
蒼い天に初夏の生暖かい風が吹き、の細い髪の毛を揺らした。


?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


っ!」


「あっ、え!? な、なに? 聞いてなかった」


「まったく・・・仕方ないですね」


突如上から降ってきた風早の呼びかけにようやく気付いて、目をぱちくりさせてしまう。
―――昨夜、足往と、シャニの欠けてしまった珊瑚の手纏をこっそり探しにいったのが功を奏したのか、出雲は今日の夜にでも祭りを開いてくれることを約束してくれた。風早には『無事だったからいいものの、深夜に抜け出すのは危ないから止めてください』と咎められたが、早く神の座(くら)へと行くことが出来たからそれはそれでよかったのではないかとは一人思う。
しかし、やはり勝手に出歩いたりしたことに対しては純粋に申し訳なくて。それにぼうっと呆けていて彼の呼びかけに答えなかったことも悪い。


「ごめん・・・・・・風早」


そう、頼りなく微笑んで謝れば、風早もそれ以上追求してこなかった。




「・・・何を見ているんですか?」


「・・・・・・・・・」


「ああ・・・あれか」




一行は夜まで時間を持て余していた。そこで天鳥船の近辺で自由行動の時間になったのだが、は連日続く哀しい出来事のせいでどうもどこにも行く気力が起きなかった。
またいつものようにぼうっとしながらこの丘を歩いていたら、丘の下からなにやら兵士の野太い声が聞こえてきて。良く見てみれば彼らは開けた場所で演習用の武器を握り、組み合っていた―――そう、自主訓練というやつだ。
そしてその訓練を率いているのはあの人だった。金輪際近寄るなとは言われても、やはり何故そんなことを言われたのかはわからない。その前までは、少し、邪険に扱われていたようなかんじはしていたけれども、あの―――夜の堅庭で桜のお守りを拾ってくれた時には一番心が近寄れたと思っていたのに・・・。
そんなことを思っているうちに足は自然と止まって、どうしてそんなことを言ったのだろうと考えこんでしまっていたのだ。




「訓練が気になるんですか?」


が座っていた横に風早も腰を下ろして、と同じ景色を眺める。


「・・・う、ん。ちょっと訓練が厳しすぎないかと思ってね・・・」



本当は忍人の発言について考えていたのだが―――だが言われてみれば、もう何千回も槍の素振りを命じられている兵士に疲弊が見えて。しかしそれを見た忍人は休憩を命じるならまだしも、もっと腰を入れてもう千回素振りをやり直すようにと命じていた。流石に、やりすぎなような気がする。



「気になることがあるなら、直接言ってくればいい。何かあったら俺がフォローに入りますし。・・・らしくありませんね」

「・・・・・・う・・・ん・・・・・・・」

「? ・・・、忍人となにかあったんですか?」

「えっ・・・・・・?」





―――なんでだろう。

小さい時から、風早には全部見通されてしまう。



でも、何故あんなことを言われたのかなんて相談しても、自分ですら皆目見当つかないのだからおそらく無駄な時間を費やすことになるだろう。そう思って、はただ黙り込む。



「・・・あまり深くは訊きませんよ。は最近、ちょっと疲れてますからね」

「・・・・・・・・・」

「で、あの訓練ですが・・・。忍人は、五年前の橿原宮陥落の時―――心に大きな傷を負ったんです」

「あ・・・それ聞いたことある。敵が攻めてきたというのに保身のために逃げた将のこと、必死に戦って高千穂まで逃げ延びたこと・・・」

「そう――――――大切な友人も逃亡してしまってね」



え?とは聞き返す。敵前逃亡する将、自分が弱かったが為に何も守れない弱さ、虚無感・・・それらの話は以前聞いたことがあったけれど、友人の話など聞いたことが無い。
が尋ねれば、風早は少し顔に哀愁の色を漂わせながら、話してくれたのだった。













「そう・・・布都彦のお兄さんが・・・姉様と・・・」

「ええ―――でも、俺たちは信じているんですよ。羽張彦は決して己の利己で一ノ姫様と逃亡したのではない・・・と。だから―――忍人は今も待っている。彼が帰ってきた時に『何も守れないお坊ちゃん』と笑われないようにね」



そうか・・・。



そこまで聞いてはハッとした。




忍人も、大切なものを守れなかったのだ。




「甘い」と嘲笑われる自分とは全く違うようでいて、それでも何か似たようなものを感じるのも、きっとこのせい。自分が無力で、どんなに努力をしたとしても結局はどこか詰めが甘くて大切なものを守れない。自分が弱かったが故に布都彦の兄の心中も分からずその尊い命を散らせてしまう結果になった。
そして自分の無力を嘆き、または一時の忘却の為に強さを求めた。誰もが近寄れないような破壊の力を。同時に自分と同じ思いを誰にもさせたくないと願い、あのような厳しい訓練を強いているのだと。
だとしたら、あの訓練も納得できるものだ。なぜなら、戦場での『僅かな隙』はそれが内面的なものであれ外面的なものであれ即、死に繋がるものであるのだから。

そしてその力を求める行為は同時に、己の力の限界を知った者のみに与えられる恐怖を増幅させてゆくのだ。だから―――あのように誤解されるような剣幕を纏って。



「・・・・・・・・・・」



だとしたら、なんて、哀しく優しい人なのだろう?



その弱さは恐怖である。だが、その弱さの根源たる自身を知ることは力になる。たとえそれが徒然の癒しだとしても。
学びは恐れに変わる。たとえそれが力に餓える、彷徨える孤独な狼であっても。



でも――――――・・・。



「その為に大切な人を奪われた人たちは・・・その人たちの心は救えるの?」



その氷のような優しさは彼をいつか苦しめる結果になるかもしれない・・・。きゅう、と狭くなった胸の内を吐露するかのように言葉を押し出せば、突然不思議な発言をするを風早は驚いた瞳で見つめることはなかった。



「でもね、。無力なモノであろうと、きっと・・・守れるものはありますよ」

「風早・・・?」

「さ・・・・・・いつの間にか夜風が強くなってきましたね。風邪を引くと折角の祭りが台無しですよ。一旦天鳥船に戻りましょう」

「う、ん・・・・・・・・」




―――なんでだろう。

小さい時から、風早には全部見通されてしまう・・・ようだ。



夕日の逆光を浴びる風早の表情は読み取れない。なんだか、いつも見ていた彼がどこか遠い・・・知らない世界の人間に思えた。蒼い髪は橙色と混じり、そこはかとなく哀愁を漂わせているからだろうか。
しかし、先の話によれば風早も忍人と同様、大切な旧友を守れなかったのだ。そのことを不意に自分が思い出させてしまって、心に影が出来てしまっているのかもしれない。
・・・五年前に、出来ることなら今の姿のままで戻りたい。あの日あの時に・・・この世界の人々はあまりにも大きなものを失いすぎたような気がする。それは不思議なことに、中つ国の人だけではなく敵国である常世の国でさえ・・・あのアシュヴィンの笹百合の光を反射する切なげで真剣な瞳を見たら、そう思わざるを得なくなる。



だが、それは許されない。



起きてしまった事象はもう二度と書き換えることは出来ない。
だからこそ、その一瞬一瞬を大切に生きなければならないし、後悔は現実を生きる枷にもなり、また理由にも成りうる。








苦しみが未来への希望になるのなら、その苦しみの記憶を決して、忘却してはならない。
それが――――――守れなかった者からの、精一杯の贈り物なのだから。














***



「シャニ様、いかがなされましたか?」

「えっ、な、なに?」

「何かご気分が優れないような顔色ですが・・・・・・」


祭りの準備で周りの者がざわつくなか、シャニは何かを振り払うように顔を洗っていた。そのことに気がついた武官は走らせていた足を止めてシャニに尋ねたのだった。



「やだなぁ、こんなお目出度い日に体調崩すわけなんてないよ。むしろ今から楽しみにしてたお祭りだから、わくわくしちゃって気持ちを落ち着かせなきゃ、と思ってたんだよ」



あはは、とあっけらかんとした笑い声を上げて、濡れていた顔を近くにあった布でごしごしと拭く。



「それならば、よろしいのですが・・・・・・。もしご気分が優れないようでしたら、祭りの準備をすぐ中止させますので早めに仰ってくださるよう」


「だから大丈夫だって言ってるのに。・・・もう、わかったよ」


また慌てて駆けてゆく男の姿を見送って、一人シャニは呟く。




「お姉ちゃん・・・」



あの――――――旅芸人だと言っていた女人。

珍しい金の髪、透き通った蒼穹の瞳、そして『見えてしまった未来』―――予言。


初めて夜見に訪れたときに、ぼんやりと垣間見てしまったのだ。



「僕の力でないと・・・気のせいだといいんだけど」



そう思った瞬間また悪寒が襲ってきて、シャニはいつもの引き出しを開ける。そして性急に日記を取り出し、近くに転がっていた羽の筆に墨を付け、覚書のようにさらさらと綴ってゆく。



「もしこの僕が見た光景が事実だとしたら――――――」



額からツー、と冷たい汗が流れ落ち、予知した墨をぼかす。



「・・・・・・・・・まっ、こんなこと起こるわけないっか! 僕も疲れてるんだ、きっと・・・」



それがまだ乾かないうちにまるで目をそらすようにして勢い良く閉じて、また机の中に放り込む。
すると、この胸のうちでもやもやしていたことを形にしたことで気が済んだのか、自然と平静が戻ってくる。


あんなこと起こることはないのだから・・・あれは気のせいなんだから・・・。


そう自分に言い聞かせるシャニの目には、明らかに戸惑いの色が滲んでいた。

















未来を見る若雷の日記はこう綴る。















 遍ク彗駆ケル 百ト八十八ノ夜半(ヨハ)


 遂ニ輝血ノ大蛇ハ胎内ヲ喰破リ 千呪唄ヲ謳イ上ゲ


 些末ナ迷イ子ハ 冥ト久遠ノ死ヲ遂ゲル


 弐太刀 刃 其ノ元ニ


 星霞ノ宿望


 断罪ヲ果タス


 後ニ 



 愚者ノ息吹ハ皆無 悉ク 聞コエズ  



 白麒麟ハ 其ノ命ヲ 終エタ。














「祭りだなんて、久しぶりだな。全く面倒くさい」


「もー、また那岐ってば・・・。でもお祭りか・・・あっちの世界でもそういう風習はあったからなんだか懐かしいな」


「でもの知っている祭りとはちょっと違うと思いますよ。この世界で祭りは神事。大変厳かなものですからね」


「かーっ、つまんなそうだな。海賊再興のためにもせめてなんか金目のものがあればいいんだがなぁ・・・」


「おや、『再興』ですか? ・・・ふふ、すみません。サザキたちの成りを見ていたら自然と笑みが零れてしまいました」


「かっ、海賊など物騒なことをよくも姫の前で・・・! サザキ殿、今は貴公もこの中つ国の軍の一員なのだ。その自覚を持っていただかねば・・・」


「・・・・・・・・・(布都彦、あまり姫と呼ぶと出雲の民に隠していた言霊が聞こえてしまう・・・)」


「・・・・・・・・・・・・・・・」








星が、降る、降る。


光が、散る、散る。


その溢れんばかりの光に耐え切れないというように、叫び声を上げながら。






『目前の者を刃の贄とせよ。さすれば、白き国は永久に神の恵を受けられるだろう』



『大いなる選択の星取夜、この世界を救いたくば、龍神の神子を殺めるのです。さすれば世界は恵に満ち溢れ、流れ落ちた雫をもって神子は苦渋の永劫輪廻から解脱する・・・』








世界は ばらばらに散らばった心を置き去りにして急激に加速を始めた。






ヒトの終焉に向けて。











予言成就の百八十八夜は――――――もうすぐそこまできている。























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うわああああんやっぱり十六話に持ち込んでしまった自分orz

十五話「櫻花よ眠れ、星よ咲け」。でした。
全てを知るのは麒麟さんですが、その麒麟さんでも不可能なことがある・・・
そのことに重点を置いて描きました。あとは将軍の弱さです。
弱さシリーズ好きだなー自分。
そうそう、あと本編ではサザキ、布都彦、忍人で珊瑚を探したイベントは
将軍と行動を共にするというシーンがあるので、ちょっと変えてみました。
足往とこっそり見つけてきちゃいました。でも将軍はいつものように
ガミガミはいえません。代わりに風早に言われちゃいましたが(笑)
そして二度の大きなショックを受けた
知るだけでは誰も守れない。では一体自分は誰を、何を守れるというのか?

そう思った時に知る「あの人」との共通点。相対化した時に知る新事実は
一体次回のにどんな「決意」をさせてくれるのでしょうか。


いよいよ、次回こそ本当に!転機ですので・・・今回は短めに、ここまで
にしておきます。

ではでは!








6:27 2009/02/12  琴